第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「ちゃんこにタバスコだと!?」
「いいだろ別に入れたって!」
「この非国民が! 恥を知れ!」
結局なにも言い出せないまま。
澤村くんによるお鍋作りは厳粛に進行していったし、それに伴って時間もするすると過ぎていった。
鍋奉行、というより、鍋侍といった感じだろうか。
武骨な腕を組んだその姿は、鍋という名の自陣にて敵を迎え討たんとしている戦国武将のようだ。
タバスコで下剋上を企む孝支くんが明智光秀に見える。
「なあ、瀬野さん」
「ん? どうしたの旭くん」
「キャラメリゼって何だ?」
どうしてなのか理由は敢えて聞かないけれど、お菓子作りを教わりたいらしい旭くん。
彼はちびちびとお鍋を口に運びつつ【男でも作れる簡単スイーツ10選】というコラムに目を落としていた。
「キャラメリゼ、はね」
私はどう説明しようか迷って、おもむろに腰をあげる。
どうせなら実践しよう。
そう思ったのだ。
今日のデザートは旭くんとパンケーキを作るつもりだったし、トッピングにバニラアイスも買ってある。
そこにほろ苦いキャラメリゼ。
うん、合う、美味しそう。
「という訳でやってみよう」
「ん? え? どういうワケ?」
「いいから、ほら、台所行こ」
言いながら旭くんの背を押す。
戸惑う彼をぐいぐい台所に押しやって、私は、2016年タバスコの乱が勃発している合戦場(リビング)を後にした。