第12章 雪白(R18:菅原孝支)
だけど、彼は優しいから。
父からの誘いを好意と受けとるだろう。私と「これでずっと一緒だな!」と喜んでくれるだろう。でも、もし。
──彼にやりたいことがあったら?
青春時代の全てを捧げているバレーボール。大学に入って続けたいと思っているかもしれない。ううん。きっとそう。
だって──
「そんでさ、俺言ってやったんだよ!」
「影山に?」
「なにを?」
「お前そんな目付き悪ィと視力悪くなんぞ? 月島みたいに眼鏡になってもいいんか? ってな」
「そんで?」
「影山何つってた?」
「俺、アイツと同じになるくらいなら目付きワリィのやめます、つって、めちゃくちゃ目開いてた影山の写メがこれ」
ブフッ!
ぶはっ!
澤村くんが麦茶を噴きだしそうになるのと同時に、旭くんがギリギリアウトで噴きだした。
楽しそうな三つの笑顔。
そんな彼らを台所から眺めて、ぽつり、やっぱり言えないよと独りごちる。
東の小さな島国の、北の片田舎の、優しさに溢れた仲間たちと、強い意志を共有して生きる世界。そして、これから先もずっと続いていくその絆。
それが彼の宿木だ。
それが彼の在るべき場所だ。
そう思う。
だから、私は言えない。
言えずに、ひとり、ずっと考えてる。どう別れを切りだせば良いのか。卒業後に両親のもとへと巣立つことを、どう伝えれば良いのか。
──私、どうすればいいんだろう。