第12章 雪白(R18:菅原孝支)
怖いのだ。
彼の、未来を奪うようで。
孝支くんは優しい。
そのひと言では表せないほど人としての器が大きくて、慈愛に満ちていて、それでいて意志の強いひと。
誰かが困っていれば絶対に助けるし、仲間が泣いていたら飛んでいって慰めて、背中を押してくれる。
自分が決めたことには誰よりも直向きで。努力を惜しまなくて。
そんな彼を慕うひとは多い。
すごく、すごく多い。
私だってその内のひとり。
「絢香ー、ただいまー」
「ただいまだってよ大地」
「全く羨ましい限りだな」
耳に優しい三つの声がした。
彼ら、バレー部は不思議な集団だ。
主将である澤村くんの人柄がそうさせるのか、皆一様に、優しさと強さを兼ね備えている。
澤村くんは強さの成分が多めで、孝支くんはバランス型、旭くんは優しさが八割、かな。
優しくて。
強くて。
誰からも慕われている。
それが私の恋人と、その友人。
こんなに素敵な人たちに囲まれていていいのだろうか。そう不安になることもあるくらい、私は幸せ者だと思う。
だからこそ、怖いのだ。
彼は優しい。
孝支くんは、きっと断らない。
彼らは優しい。
澤村くんと旭くんは、笑顔で行ってこいと背中を押してくれるだろう。
──でも、本当にそれでいいの?
いいワケがない。孝支くんの人生を、私の都合で決めてしまっていいだなんて、そんなこと。
だって彼の人生は、彼のものだ。