• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第12章 雪白(R18:菅原孝支)




 *


「気をつけて急いでね」


 いってらっしゃい。

 玄関へとつづく暖簾越しに、そう声を掛けた。一拍間を置いてから、パタパタと駆けていく足音。

 きっとまた例の恒例行事とやらをやっていたのだろう。

 両親が天国にいるみたいだからやめてと言ったのに。実際はオーストラリアなんだから。


「──……オーストラリア、か」


 今頃、自然に囲まれて【絶滅危惧種の保護】に精を出しているであろう両親。

 ふと、仲睦まじいその笑顔を思い出す。いつまで経ってもラブラブな私の、お父さんとお母さん。


『絢香、菅原君のことなんだがな』


 ストン、包丁が鳴る。
 シャリ、白菜が切れる音。

 脳裏を過るのは父の台詞だった。

 一週間ほど前。

 突然電話をかけてきた父は、いつになく真剣な声で語りかけてきた。

 その夜は雲ひとつない晴空で、たくさんの星が瞬いていたのを今でもよく覚えてる。


『彼には素質があると思うんだ』

『……そうね、まあ、確かに』

『お前がもし高校を卒業してからも、いや、その先もずっと菅原君と共に生きるつもりがあるなら、彼に伝えて欲しい』




 ──オーストラリアに来てくれ。




 それが父からの伝言だった。

 父がリーダーを務める非政府組織、いわゆるNGOというやつだが、その一員に孝支くんをスカウトしたいのだそうだ。

 絶滅の危機に瀕している動物たちの保護。それが彼らの仕事。

 そして、父が孝支くんに「向いている」と評した仕事でもある。


 トツン、包丁の先だけが鳴る。
 切れかけで止まったままの白菜。


 私は、父の意志を孝支くんに伝えることが、──どうしても出来なかった。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp