• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第12章 雪白(R18:菅原孝支)




「こーしくーん」


 台所からのんびりした声。

 俺のかわいいかわいい恋人。
 絢香が俺を呼ぶときの声。

 この、なんとも言えない気怠そうな声色が好きなんだよなあ。


「ん!? 何!?」


 リビングでしょんぼりしていた俺だったが、絢香の声がした途端、飛んで起きてダッシュで台所に向かった。

 中に入ると彼女に怒られるので、リビングとの境目に立って返答を待つ。もしも俺が犬だったら、間違いなく尻尾を振っていることだろう。

 これでもかと輝いた目で。
 ぶんぶん、って。


「バター買ってきて」

「ん、え?」

「切らしてたのに忘れてたの、バター、だから買ってきて?」


 まな板には白菜。
 その手には包丁。

 有無を言うことすら許されなかった。おかしいな。普段は天使レベルにかわいい彼女が【名前を言ってはいけないあの人】に見える。

 孝支!
 アンタたまにはお遣いくらい行ったらどうなの!

 俺の脳裏を過ぎったのは、どこぞの超強え闇魔法使いではなくて、ただのおばちゃんの姿である。もとい。

 またも母さんの面影を絢香に感じた。


「孝支くん、早く行かないと、時間……澤村くんたち来ちゃうよ?」

「あ、はい、いってきます」


 バター犬にでもなってやろうか。

 なんて下衆いことを割りと本気で考えたのだけれど、これは俺だけの内緒にしておこうと思う。

 大人しくお買いもの行くとしますか。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp