第12章 雪白(R18:菅原孝支)
「こーしくーん」
台所からのんびりした声。
俺のかわいいかわいい恋人。
絢香が俺を呼ぶときの声。
この、なんとも言えない気怠そうな声色が好きなんだよなあ。
「ん!? 何!?」
リビングでしょんぼりしていた俺だったが、絢香の声がした途端、飛んで起きてダッシュで台所に向かった。
中に入ると彼女に怒られるので、リビングとの境目に立って返答を待つ。もしも俺が犬だったら、間違いなく尻尾を振っていることだろう。
これでもかと輝いた目で。
ぶんぶん、って。
「バター買ってきて」
「ん、え?」
「切らしてたのに忘れてたの、バター、だから買ってきて?」
まな板には白菜。
その手には包丁。
有無を言うことすら許されなかった。おかしいな。普段は天使レベルにかわいい彼女が【名前を言ってはいけないあの人】に見える。
孝支!
アンタたまにはお遣いくらい行ったらどうなの!
俺の脳裏を過ぎったのは、どこぞの超強え闇魔法使いではなくて、ただのおばちゃんの姿である。もとい。
またも母さんの面影を絢香に感じた。
「孝支くん、早く行かないと、時間……澤村くんたち来ちゃうよ?」
「あ、はい、いってきます」
バター犬にでもなってやろうか。
なんて下衆いことを割りと本気で考えたのだけれど、これは俺だけの内緒にしておこうと思う。
大人しくお買いもの行くとしますか。