第12章 雪白(R18:菅原孝支)
台所は女性の聖域である。
そんなことを言っていたのは、どこぞの料理評論家でも研究家でもなくて、ただのおばちゃんである。間違えた。今のなし。
俺の母さんである。
「絢香ー」
「んー?」
「そっち行ってもい」
「だめ」
「食いぎみ! 即答!」
どうしてこうも彼女は母に似ているのか。絢香も言うのである。台所は男子禁制よ、と。
男は母親に似た女性に惹かれるらしいという話を聞いたことがあるけど、多分に漏れず【そう】である俺が悪いのか。
納得がいかない。
「男のロマンなのになー……」
彼女の細っこい背中を見つめて、ジトッとした不満を投げかけてみた。
しかし彼女は答えない。
答えることも応えることもせずに、ただ、黙々と白菜を刻みつづけている。
「抱きつきたい!」
「だめ」
「こう、後ろからぎゅっと!」
「だーめ」
「あわよくばその先も!」
しつこいよ孝支くん。
そのひと言で一蹴されて、俺は呆気なく撃沈した。しつこいて。何もそんな冷たく言わなくてもいいべ。これだから台所に魅せられた女性は怖い、と思う。