第11章 灼熱(R18:牛島若利)
柔らかい質感の兵児帯は、結目に手を掛ければいとも容易く解けてしまう。
就寝のための浴衣。
御家の紋が染められた衿に手のひらを滑りこませ、閉じていた前合わせを左右に寛げた。
雪原のような胸元が露わになる。浮きでた鎖骨に口付けを、柔く、熱く、唇を這わせていく。
「──……っ!」
思わず赤痣を残してしまいたくなって、それが出来ない自分が悔しくて、歯噛みした。
柔肌に歯を立てられた痛みで、彼女の身体がビクリと脈を打つ。
肌蹴させた藍色から覗いた乳房は驚くほど白い。なだらかな双丘が忙しく上下するたびに、彼女から漏れる吐息。
それは、狂おしいほど。
「……綺麗だ、……絢香」
ひとり言のように呟いて、彼女の両肩を露出させる。支えを失った浴衣がその白肌を滑って、落ちて。
身に纏うものが下着だけになった最愛を今一度、きつくきつく抱き締めた。
「……若利くん、ど、したん」
「あの男の跡が残ってる」
「……っ! ……どこ、に」
彼女が視線を彷徨わせる。
恐る恐る見下げたそこ。
秘部と太腿の境目に、これ見よがしに刻まれた跡があった。赤く熟れた痣。あの男が、絢香を抱いた証。
息が、出来なくなる。
気が、狂ってしまいそうで。
「……いや、嫌や、こんなん」
絢香は泣いていた。
苦悶に顔を歪ませて。
これでもかと唇を噛み締めて。
嫌だ嫌だと泣いていた。
「……汚ないなあ、私は」
ぽたり
落ちたのは自虐と、冷たい涙。