第11章 灼熱(R18:牛島若利)
(駄目、若利くん──……!)
腕を、掴まれた。
そのまま僅かに開いた明かり障子のなかへと引きずりこまれて、眼前に浮かんだ華奢なシルエットに仰天する。
月夜に照らされた障子紙。
蒼白い無数の格子を切りとる黒は、他でもない、絢香の形をした影だった。
(何をしようとしてたん……!?)
音もなく障子を閉めて、ひと言。
小声ではあるがピシリと言い放った彼女は、まだ俺を捕らえたままだ。
震えているのだろうか。
俺の左腕を掴むその手が、指先が、微かな震動を伝えてくる。
(……あの男を殴ろうかと)
(したらあかん! そんなんしたら大変なことになるって、若利くんなら分かるやろ……!?)
それに、と彼女は付け加えて。
目を伏せて沈黙してしまった。
今度は明らかに震えている唇。何かを言おうとして。でも言えなくて。言うべきか、言わぬべきか。迷いあぐねているような、そんな唇。
す、小さく息を吸う音がした。
(あなたの手は、あんな男を殴るためにあるんと違います)
彼女は言う。
俺を、ジッと見上げて。
(若利くんの手は、この左腕は、翼や。勝利を捥ぎ取って、世界に羽ばたくための、大事な大事な翼やろ……?)
(──……絢香姉さん)
(……私な、バレーをしてる若利くんが好き。誰よりも気高く、勇猛果敢に空を舞う、そんなあなたに私は、──ずっと昔から恋をしとるんよ)
恋、と、彼女は言った。
その瞬間全てがどうでもよくなった。枷が外れた気がした。あの男への怒りも。守るべき建前も。一族のしがらみも何もかも。
そんなの、今はどうでもいい。