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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第11章 灼熱(R18:牛島若利)



 その日、その夜。

 設けられた宴席に招かれた男は、イギリス製のスーツを身に纏った【某大手着物レンタル会社】の次期取締役だった。

 彼女の婚約者である。


「老舗呉服店はどうしても敷居が高いというイメージを抱かれがちですので、我々はそれを一新させて更なる発展と飛躍を──」


 ツラツラと舌がよく回る、と思った。

 いかにも聡明そうな眼鏡面。
 静かだが意欲と野心に溢れる青年実業家といったところか。おまけに端整な顔立ち。アジア圏にたしかこんな顔の俳優がいた気がする。

 どうりで叔母たちが気に入るわけだ。


「神田はんが居てくれたらウチも安泰やわあ、ねえ、お父さん?」

「……ん、娘を宜しく頼む」


 どこにでも有りそうな会話。

 いやあ、恐縮です。
 僕なんてまだまだ若輩者で。

 ほぼ建前だけで進んでいく披露目の宴会。婚約発表ということもあってか、集まった親戚たちは皆一様に、高価そうな一張羅で着飾っていた。

 大島紬に、加賀友禅。
 あっちのは牛首紬だろうか。

 色とりどりに咲いた花はどれも、己が美しさを競い合うようにして。豪華で。絢爛で。



『今日は特別な日なんやから』



 ああ、あれはこういう意味だったのかと、ひとり、釈然としない納得をする。

 飲めもしない振舞い酒。
 祝枡のなかで揺れる透明。

 ヒノキが香るそれを口内に流しこんで、ごくりと無理矢理に呑みくだして、言葉も本音も何もかも。


「──……熱い」


 酒に焼かれた喉が。
 恋に焦がれた心が。

 あの男の隣で微笑むあなたを映す、この瞳が、妬けるように熱くて──

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