第11章 灼熱(R18:牛島若利)
上質な絹でできた長襦袢が、するり、肌を撫でつけていく。心地のよい冷たさ。手際よく結われていく腰紐。
「若利くんはシュッとしとるなあ」
「シュッと?」
「うん、まだ若くてお肉もないしな、タオル詰めて補正しやんとお着物が崩れやすくなってしまうんよ」
俺の腹部に触れながら、彼女は真剣な面持ちをしていた。
仕事をしている時の顔。
凜として、精悍な。
夜会巻きに結いあげられた黒髪と、雪のような項(うなじ)の白。解れてしまったおくれ毛が、なんとも扇情的で。
どうしてこんなにも美しいのか。
彼女という存在自体が奇跡に思えて、胸が詰まって、ほら、また呼吸の仕方さえ分からなくなる。
「俺はあなたが欲しい」
「──……、え」
「何でも強請っていいんだろう?」
「……わか、とし、く」
「なら俺はあなたがいい」
着せかけの藍染。
二人きりの化粧部屋。
彼女の手から角帯が抜けて、落ちて、畳にぶつかってパサリと音を立てた。
口紅は恥じらいの桃。
瞳は大和撫子らしく黒々として、華奢な身体には上品な藍がよく似合う。
【美しい】
そのひと言が命を吹き込まれて生きているかのような──
「あなたを俺にくれ、絢香」
彼女を見据えて告げる本心。
細くて薄いその肩を掴んで、体重をかける。近づく唇は抵抗を見せない。
彼女が、ゆっくりと瞳を閉じた。