• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第11章 灼熱(R18:牛島若利)




「若利くんにはこっち」

「……こっち、とは」

「男気溢れる濃紺の藍染」


 彼女の腕には男用に仕立てられた長着が抱かれていた。たとう紙に包まれたままのそれ。ズイ、と問答無用で差しだされる。

 どうやら、俺にも充てがう品が用意されているらしい。

 深い闇夜のような濃紺。
 飾り気はおろか、ひとつの小紋もない無地の一張羅。男気溢れるのかどうかは分からないが、たしかに美しい着物だと思う。


「俺は別にいつもの浴衣でも」

「だ、め、今日は特別な日なんやから」

「──……?」


 どこか引っかかる物言いだった。

 しかし、女性の好意を二度断ってまで問いただすほど俺も不粋ではない。そういう男でありたいと思う。

 だから、それ以上は何も聞かなかった。


「おばちゃんに着せてもらい」

「……着物くらい自分で」

「あ、また可愛げのないこと言う」


 そこまで言ってピン、と何かを閃いたのは彼女だった。いや、むしろこれは閃くというよりも──


「昔みたく私が着せてあげよか」

 とびきりの悪戯を思いついた。
 そう言いだけな、企み顔。

「絢香姉ちゃんが着せたるわ」


 いや、流石にそれは。

 口の奥のほうで断りを入れようとするが、時既に遅し。ちなみに祖母は反物に夢中でこちらには目もくれない。

 さ、行こか!

 意気揚々と言った彼女は俺を引きずったまま、客間の外へとその一歩を踏み出してしまうのであった。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp