第11章 灼熱(R18:牛島若利)
「若利くんにはこっち」
「……こっち、とは」
「男気溢れる濃紺の藍染」
彼女の腕には男用に仕立てられた長着が抱かれていた。たとう紙に包まれたままのそれ。ズイ、と問答無用で差しだされる。
どうやら、俺にも充てがう品が用意されているらしい。
深い闇夜のような濃紺。
飾り気はおろか、ひとつの小紋もない無地の一張羅。男気溢れるのかどうかは分からないが、たしかに美しい着物だと思う。
「俺は別にいつもの浴衣でも」
「だ、め、今日は特別な日なんやから」
「──……?」
どこか引っかかる物言いだった。
しかし、女性の好意を二度断ってまで問いただすほど俺も不粋ではない。そういう男でありたいと思う。
だから、それ以上は何も聞かなかった。
「おばちゃんに着せてもらい」
「……着物くらい自分で」
「あ、また可愛げのないこと言う」
そこまで言ってピン、と何かを閃いたのは彼女だった。いや、むしろこれは閃くというよりも──
「昔みたく私が着せてあげよか」
とびきりの悪戯を思いついた。
そう言いだけな、企み顔。
「絢香姉ちゃんが着せたるわ」
いや、流石にそれは。
口の奥のほうで断りを入れようとするが、時既に遅し。ちなみに祖母は反物に夢中でこちらには目もくれない。
さ、行こか!
意気揚々と言った彼女は俺を引きずったまま、客間の外へとその一歩を踏み出してしまうのであった。