第11章 灼熱(R18:牛島若利)
彼女のことが好きだ。
鈴音のように美しい声が好きだ。芯があるのに柔らかな響きが好きだ。
彼女が笑んでくれる。
その笑みを向けてくれる。
ただそれだけのことが、何よりも尊いと思う。
自分にこんな淡い感情を抱くような【心】があるだなんて、知らなかった。彼女が教えてくれた。
この胸に芽吹いた感情が【恋心】なのだと、彼女を想うようになって初めて知ったのだ。
「宮城のおばちゃんにな、ぴったりの箔使いが入っとるんよ」
「ほう、どれ、見てみようかね」
国内最古の歴史を持つ呉服屋。
それが彼女の生まれ育った家だった。母の実姉が嫁いだ先。名だたる旧家や政財界を相手に商売を続けてきた、国随一の呉服問屋である。
「あら、金彩友禅じゃないか!」
「おばちゃんこういうの好きやろ?」
「ええ、ええ、好きですとも」
雅やかな反物を手に、祖母がうっとりと嘆息している。気に入ってもらえて良かったわあ。満足げに胸を張っている彼女。
そんな二人をぼんやり眺めていたら、ふと、彼女と目が合った。
『ご機嫌取り大成功やね』
俺にだけ見えるようにして囁く口元。桃のように色付いた唇が、悪戯っぽくそう告げる。
なんて可愛らしい。
柄にもなく、だけど心から、そう思った。俺は彼女が好きだ。どうしようもなく。好きで好きで堪らない。