• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第11章 灼熱(R18:牛島若利)



 彼女のことが好きだ。

 鈴音のように美しい声が好きだ。芯があるのに柔らかな響きが好きだ。

 彼女が笑んでくれる。
 その笑みを向けてくれる。

 ただそれだけのことが、何よりも尊いと思う。

 自分にこんな淡い感情を抱くような【心】があるだなんて、知らなかった。彼女が教えてくれた。

 この胸に芽吹いた感情が【恋心】なのだと、彼女を想うようになって初めて知ったのだ。


「宮城のおばちゃんにな、ぴったりの箔使いが入っとるんよ」

「ほう、どれ、見てみようかね」


 国内最古の歴史を持つ呉服屋。

 それが彼女の生まれ育った家だった。母の実姉が嫁いだ先。名だたる旧家や政財界を相手に商売を続けてきた、国随一の呉服問屋である。


「あら、金彩友禅じゃないか!」

「おばちゃんこういうの好きやろ?」

「ええ、ええ、好きですとも」


 雅やかな反物を手に、祖母がうっとりと嘆息している。気に入ってもらえて良かったわあ。満足げに胸を張っている彼女。

 そんな二人をぼんやり眺めていたら、ふと、彼女と目が合った。


『ご機嫌取り大成功やね』


 俺にだけ見えるようにして囁く口元。桃のように色付いた唇が、悪戯っぽくそう告げる。

 なんて可愛らしい。

 柄にもなく、だけど心から、そう思った。俺は彼女が好きだ。どうしようもなく。好きで好きで堪らない。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp