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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第11章 灼熱(R18:牛島若利)




 *


 好きな女性(ひと)がいる。

 そんなことを言ったら祖母は笑うだろうか。いや、きっと嗤うのだろう。恋など幻だ。若いがゆえの錯覚だ。

 そう言って、嘲笑するのだろう。


「ほれ若利、ご挨拶なさいな」


 祖母に促されるがまま、正座した脚に握った拳を乗せて一礼した。近くなる畳目。香るイグサの匂い。


「久しぶりやなあ」


 藍色の有松絞りに身を包んだ彼女は、花が咲うような笑みをこちらに向けた。

 瀬野絢香。
 母方の従兄弟にあたる女性だ。


「若利くん、また背伸びたんちゃう?」

「……2センチほど」

「そら偉い立派やなあ」


 関西某県某所。
 茹だるような夏のある日。

 祖母に連れられて毎年恒例のお盆参りに来たのだが、俺はいまだに俯いて畳目を凝視したままでいた。

 苦手なのだ。

 彼女の目を見るのが。

 分からなくなる。何を話せばいいのか。どんな顔をすればいいのか。呼吸の仕方さえも。だから彼女の目が見られない。どうしても躊躇してしまう。

 こんな風になってしまったのは、一体、いつの頃からだっただろう。


「昔はこーんなに小さくてなあ」


 可愛らしかったのになあ。
 もうすっかりお兄さんやね。

 鞠が転がるようにコロコロと、楽しげに話を続ける彼女。その声。その響き。その笑顔。

 その全てに、俺は──

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