第11章 灼熱(R18:牛島若利)
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好きな女性(ひと)がいる。
そんなことを言ったら祖母は笑うだろうか。いや、きっと嗤うのだろう。恋など幻だ。若いがゆえの錯覚だ。
そう言って、嘲笑するのだろう。
「ほれ若利、ご挨拶なさいな」
祖母に促されるがまま、正座した脚に握った拳を乗せて一礼した。近くなる畳目。香るイグサの匂い。
「久しぶりやなあ」
藍色の有松絞りに身を包んだ彼女は、花が咲うような笑みをこちらに向けた。
瀬野絢香。
母方の従兄弟にあたる女性だ。
「若利くん、また背伸びたんちゃう?」
「……2センチほど」
「そら偉い立派やなあ」
関西某県某所。
茹だるような夏のある日。
祖母に連れられて毎年恒例のお盆参りに来たのだが、俺はいまだに俯いて畳目を凝視したままでいた。
苦手なのだ。
彼女の目を見るのが。
分からなくなる。何を話せばいいのか。どんな顔をすればいいのか。呼吸の仕方さえも。だから彼女の目が見られない。どうしても躊躇してしまう。
こんな風になってしまったのは、一体、いつの頃からだっただろう。
「昔はこーんなに小さくてなあ」
可愛らしかったのになあ。
もうすっかりお兄さんやね。
鞠が転がるようにコロコロと、楽しげに話を続ける彼女。その声。その響き。その笑顔。
その全てに、俺は──