第11章 灼熱(R18:牛島若利)
「天童」
何だ、どうした。
なにか用か。
その全てを内包したような声色で、若利くんが俺を呼んだ。眠たげな瞼を押しあげた彼の隣に腰かけて、もう一度、首を傾げてみせる。
「少しお話でもしようじゃないか」
「……話? 何を話すんだ」
「うーん、何がいいかなあ」
彼との会話は嫌いじゃない。
たとえその会話が噛み合っていても、噛み合っていなくても、若利くんは気にしないから。
俺も好きなことを好きなだけ話せるし、聞いてくれる相手がいるというのは、とてもとても有難いことだ。
でも、そうだな、今日はちょっと趣向を変えてみようと思う。
「恋バナなんてどうでしょう」
「…………恋?」
「うん、恋、ラブ、それは愛か」
「俺はそういった話はあまり」
「まーまー、そう言わずにさ、俺たちまだコーコーセーなんだから」
凛とした冷気漂う、春。
お正月気分が抜けない三学期の、とある昼下がりの中庭で。俺は若利くんの背中をポン、と叩いてみた。
「謳歌しましょうよ。限りある今という青春を。卒業へと旅立ちゆくまでの、せめてもの間にさ」
そより
風が俺たちを撫ぜていく。
「ね? だから話して?」
「俺が話すのか、お前ではなく」
「そ、俺ではなくて、若利くんが」
「──……分かった」
おもむろに彼が空を仰ぐ。
見上げた先は、キラキラと。
冬の刹那的な木漏れ日に目を細めて、彼は。
「一度しか話さないぞ」
そう言って、ぽつり、ぽつりと、昔話を紡いでいくのだった。