第11章 灼熱(R18:牛島若利)
春の木漏れ日のなかで。
そんな歌い出しから始まる曲は何だっただろうか。たしか、往年のフォークソングだったような気がするんだけど。
「おやおや?」
図書室棟と南校舎に囲まれた中庭で、彼を見つけた。
ちょっと色褪せたベンチ。
微睡んで俯く、大きな背中。
幾千もの期待を背負い、そして今でも背負いつづけているその左肩に、常緑広葉樹が幾筋もの光を降らせている。神々しさすら感じさせる木漏れ日。
そのなかに埋もれている彼、若利くんは、コートで見ていた彼よりもちょっとだけ小さく見えた。
大きすぎる木のせい、かな。
「若利くんを見つけましたよお」
大袈裟に首を捻ってみせて、眠そうにしている横顔を覗きこむ。
見慣れて、見飽きて、そして焦がれるほど憧れたユニフォーム姿ではなくて、制服に身を包んだ彼。
まるで普通の高校生みたいだ。
少し、ほーんの少しだけ、悲しい。
これはそんな日のお話。
俺たちのいない春高決勝戦を間近に控えた、とある一月の、木枯らしの春のお話である。