第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
現実は、おとぎ話とは程遠い。
「…………っ、は、あ」
私の足を覆うハイヒール。
乙女の永遠の憧れ。
クリスチャン・ルブタン。
至るところにスワロフスキーが散りばめられている高級品。恐らく、片方だけで数十万円は下らない代物だろう。
ツンとした印象のそれが私に「ピッタリ」だと評した彼、京治先輩は──
『この靴で、俺を』
『凌辱してほしい』
極度のマゾヒストだった。
幼少期のトラウマやストレス、愛情の欠損などによって性癖に変化が生じるのは聞いたことがある。
先輩のこれは明らかにその一種なのだろうし、性的マイノリティを悪く言うつもりはない。
「……っきもちいい?」
「ん、っあ、すご……いっ」
「何が気持ちいいの?」
「あっ、俺、の……っここが」
悪く言うどころか、むしろ、先輩には感謝したいくらいなのだ。
「ここ? どこ?」
「……っ、恥ずかし、い」
「焦れったいわね。はっきり言いなさいよ、ほら。ハイヒールで、──股間を、踏みつけられるのが良いんでしょう?」
私のなかに眠っていた本性。
マゾヒストの、反対。
極度のサディストであるという、自分ひとりでは知ることさえ出来なかった【悦び】に気付かせてくれたのだから。