第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
「一度遊んでみたかったんだ」
生身の人間で。
「とても綺麗だよ、絢香」
狂気じみたことを平然と言ってみせる京治先輩の、その寂しそうな声を辿って、見えるはずのない彼を捜した。
エルメスの向こうに、吐息。
私を恍惚として見つめているのであろう端整な顔立ちを想像する。恍惚としているはずなのに、今にも泣きだしてしまいそうな瞳が見える。
京治先輩。
あなたを見つけた。
「──では私が愛します」
ス、京治先輩が息を止めた。
困惑しているのだろう。
私が何を言おうとしているのか分からない、そんな戸惑いと、私が言おうとしている真意への期待。
その両者がぐしゃぐしゃになって、何も答えることができない。顔を見なくても分かる。伝わってくる。
「愛します、そんなあなたを」
「……どんな俺でも? 本当に?」
「ええ、どんなあなたでも」
「…………どうして?」
「京治先輩には愛が必要だから」
私は語った。
淡々と、粛々と。
どうか彼に、彼のこころに、私の言葉が届きますように。そう願って。
「私が京治先輩を愛します。どんなあなたでも、本当のあなたを愛します。人間は皆平等に愛される価値があるから。無条件で愛される資格があなたにはあるから。京治先輩、あなたは、人形なんかじゃない」
だって──
「こんなに温かいじゃないですか」
いつの間にか、私の膝を濡らしていた熱。それはポタポタと落ちて、ジワリと温かい沁みを作っていく。
寂しかったんですね。
辛かったんですね。
「もうひとりぼっちじゃないですよ」
最後にそう囁いた私に、京治先輩は、涙味のキスをした。