第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
「さあ座って、俺と遊ぼう」
羽のような柔らかい声で促してはいるが、彼のそれは明らかな強制だ。穏やかな狂気。そんな言葉がよく似合う。
逆らえない。
抗ってはいけない。
問答無用で従わなければいけないと思わせるような、──威圧。それが赤葦先輩の声には宿っていた。
「……赤葦先輩」
私は、彼を呼んだ。
彼は、私のブラウスに手をかけた。
「京治でいいよ」
彼が、ボタンを外していく。
私の、胸元が露わになっていく。
「……では、京治先輩」
「ん、なに?」
するりとノンワイヤーブラを外されて、代わりにヌーブラが宛てがわれた。制服のスカートを脱がされて、代わりに肌触りのいいドレスを与えられる。
「どうして目を塞ぐの?」
スカーフ越しに思い起こすのは、私たちを取り囲むマネキンの姿。
そのどれもが目元を隠していたのだ。
あるモノは帽子を目深に被り、またあるモノはサングラスをかけ、中には私と同じようにスカーフで目隠しされたモノもあった。
一体どうして。
「──怖いんだ、ヒトの目が」
彼は語る。
淡々と、粛々と。
物心ついた頃からずっと、親の目を気にして生きてきた。著名人と謳われる親のために、他人(ひと)の目を気にして生きてきた。
いい子にしていれば、愛されると思ってた。優等生でありさえすれば、それが自分の価値になると思ってた。
でも違う。
そうじゃなかった。
誰も俺を見てくれなくなった。本当の俺を。皆が見ているのは、──評価して、好意を寄せているのは、人形のように空っぽの俺だけ。
「……本当はこんなに歪なのにさ」
人間(ひと)は美しいモノが好きだからね。最後にそう呟いた彼の声は、今にも消えてしまいそうで。