第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
もう、観念するしかない。
私はすでに先輩の手中に落ちているのだ。生徒会室で問いつめられた時から、ずっと。
全部見ちゃった。
彼はたしかにそう言った。
昨晩の情事はここからそう遠くない駅前のホテルだった。赤葦先輩に見られていたとしても、何らおかしくはない。
「……ええ、そうです」
先輩をまっすぐに見据えて。
その凍てついた眼差しに、正面から自分の視線をぶつけた。
「蒼井先生とセックスしました」
誘われたのだ。
正確に言えば、誘われていた。
産休に入った数学教師の代わりに、非常勤講師として蒼井先生がやってきた、その日から。
彼は一目惚れだと言った。
どうしても好きなのだと言った。
奥さんがいるにも関わらず、齢十六にも満たない私を抱きたいと、そう懇願したのだ。
「そのセックスに愛は?」
「ありませんよ、少なくとも私は」
十歳も離れた既婚者に心まで捧げたところで、傷付くのは自分なのだから。
「懸命な判断だね」
「……爛れているだけです」
「ひねてる、の間違いだろ」
「それ先輩にだけは言われたくない」
「はは、失礼な子」
すっかり溶けてしまったアフォガート越しに交わす言葉。
隠すべき秘密を曝け出したからだろうか。二人を隔てていた壁が崩落したような、不思議なキモチ。
思わぬ形で会話が弾んでしまう。
先輩の言葉を送りだすテンポが、とても心地良い。
しかし、分からないのだ。
赤葦先輩がどうしてこんな話を聞きたがるのか。
恋バナと呼べる代物でもないが、彼がそういった類のお話に興味を持つとは到底思えない。
じゃあ、一体何故。