第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
先輩が用意してくれたパスタに舌鼓を打つ午後九時。茹でたフェットチーネにクリームソースをかけただけの、簡単な食事だ。
たしかに簡単なのだけれど。
「…………!」
「美味しい?」
「……! ……っ!」
私は言葉を発することなく、しかし全身全霊で頷いていた。口内が一杯なのだ。絶品すぎるこのパスタで。
ごくんっ
美味しさのあまり、恥ずかしげもなく喉を鳴らして勢いよく呑みこむ。
口腔内が空になっても尚、残り続ける芳醇な味わいは何なのか。一体何者なのだ、このパスタは。
「ヤマドリタケ」
「……やま、どり?」
「そ、ポルチーニ茸とも言うね」
「……ああ! ポルチーニ!」
「口に合うみたいで良かった」
絆されていた。
完全に、餌付けされていた。
先刻までの警戒心なんてどこへやら。我ながらに情けない気もするが、淑女たる者、美味しいパスタとスイーツには心綻ぶのが性(さが)というものである。うむ。
「食後にアフォガートはいかが?」
「っ食べる! ……いえ、いただきます、……すみません」
ついキャピッとしてしまった私を一瞥して、先輩は微笑を浮かべた。こうしてると木葉さんも女の子だね。
そう、意味深に漏らして。