第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
連れられた先は、彼の自宅だった。
超が付くほどの高級マンション。
ツインハイタワーの二七階。
招かれるがままに玄関を潜ると、長い廊下の果てにリビングと思しき広大なフロアが見えた。
大きな大きな窓ガラス。
そこに掛けられたモダンなカーテンは、もちろん全自動で開閉する。
赤葦先輩は制服のネクタイを緩める傍らで、当たり前のようにカーテンのスイッチを押していた。
「適当にくつろいで」
そんなこと言われても。
緊張と困惑がグルグルと脳内を巡る。食事だなんて言うから、てっきりファミレスか何かだと思ってた。
なのに、これである。
「コーヒー好き? ああ、それとも木葉さんは紅茶かな」
「……ええ、いえ、どちらでも」
そもそも親御さんはどこだ。
まさか、ひとり暮らし?
さすがにそれは無いか。
セレブが住むような高級マンションに高校生がひとり暮らしだなんて、そんなのは映画やドラマの世界のお話である。まだ仕事から帰っていないのだろうか。
キョロリと視線を走らせる。
すると、見つけたのはメモ用紙。
【愛してるわ 母】
無機質な正方形の付箋だった。
紅茶を淹れてくれている赤葦先輩の後ろ、冷蔵庫に貼られたそれ。
今日も遅くなります。
美味しい物を食べるのよ。
そんな言葉たちと共に添えられているのは、冷たい土色の、この国で一番高価な紙幣だった。
愛とは、一体何なのか。
そんなことを漠然と考えて、赤葦先輩の淹れてくれた紅茶を口内に含んだ。
苦い、と思った。