第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
梟谷学園生徒会室。
あいにく冷房が故障中であるこの部屋で、私は赤葦京治という男に捕らえられていた。
物理的にではない。
腕を掴まれている訳でも、組み敷かれている訳でもないのに、身体が動かない。瞬きすら出来ないのだ。
捕らえられている。
宣告されている。
逃がしはしない──
確かに告げているのだ。
その、凍土のような眼差しが。
「おーす! 集まってるな諸君!」
フツと途絶えた緊張の糸。
弾かれたようにして声のほうを見やると、文化祭資料を抱えた会長の姿が見えた。
ちょっとズレた眼鏡を直しつつ、書記数人を引連れてこちらへやってくる。ちなみに会長は兄のクラスメイトだ。
「やあやあ、木葉くんの妹君! 貴女という花は今日も格段とお美しい!」
ああ、我が女神……!
私の両手をしっかりガッチリ握りつつ、会長は悦に入ったような顔をした。このひと顔を会わせる度にこれだ。
全力で愛想笑いをつくって、顔面に貼りつける。今日はどう躱そうか考えあぐねていると、聞こえてきたのは赤葦先輩のテノールだった。
「会長、木葉さんが困ってますよ」
なんとも柔和で穏やかな声色。
早速会議にしましょう。
彼は人当たりの良さそうな笑顔でそう言って、さりげなく会長の手を引っぺがしてくれた。
『──全部見ちゃった』
赤葦京治。
このひと、仮面の下にとんでもない本性を隠してる。