第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
彼の問いは単純明快だ。
そのはずなのに、私はいまだ何も答えられずにいる。面を食らうというのは、こういうことを言うのかもしれない。
「気付いてないのか?」
赤葦先輩はその美しい指先で、とん、と自らの首筋を叩いてみせた。
その視線は相変わらず小難しそうな本に落とされており、私のほうを見ようとはしない。
「ここ、痕ついてる」
「!」
ギクリとしたのは他でもなく私だった。咄嗟に首元を押さえて、制服の胸ポケットから慌てて手鏡を取りだして。
う、わあ。
鏡に映ったキスマークにげんなりと、私は肩を落とした。いつの間に付けられたのか。
絶対やめてと言ったのに。
「会長たちが来る前にちゃんと隠しておけよ。バレたら色々厄介だろ」
「……はい、すみませ」
「寝た相手が教師なんだから」
──……え?
身体機能のすべてが停止した。
そんな気がした。
胃に冷たい氷水を流しこまれたような感覚。ヒュ、と息が苦しくなって、血の気が引いていく。
赤葦先輩が、なぜそれを?
「何で知ってるの、って顔だな」
涼しげに伏せられた瞼。
あくまで淡々と言葉を吐く唇。
彼が、おもむろに顔をあげた。
「──全部見ちゃった」
ぶつかった視線は、冷徹。