第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
麗らかさとは程遠い。
降りつづく雨が延々と、空気中の水分濃度を上昇させている。まったく、これだから梅雨は不快なのだ。
「木葉さんの妹」
パラリ
文庫本の頁をめくる音がした。
自分を呼ぶその声と、上品な響きに反応して顔をあげる。
「何ですか、副会長」
真正面に向けた視線の先。
会議用の長机を挟んだところで、彼はドストエフスキーに目を落としていた。
赤葦京治。
兄と同じバレー部に所属し、正セッターとして活躍する唯一の二年生選手。私にとってはひとつ歳上の先輩だ。
かの有名な木兎主将を支える女房役。その副主将としての手腕は歴代随一と呼声高い。
おまけに品行方正。
学力も常にクラス上位とくれば、各委員会や生徒会から熱烈なオファーがあるのも頷ける。
そうして梟谷生徒会の副会長に着任した彼、赤葦先輩は、来たる文化祭に向けて準備に追われている訳だ。
部活が最優先という約束で生徒会に入ってもらったため、彼はいつもジャージ姿で会議にやってくる。
純白に映える黒金。
なんと美しく、気高いのだろうか。
「昨日男と寝たのか、お前」
だからこそ驚いた。
全教師からの信頼と、全校生徒の羨望を、その一身に受ける彼が。
赤葦先輩が、そんな問いを投げかけてきたことに。