第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
鍛えられた身体が晒された。
あまりの雄々しい肉体美に思わず目を背けて、ちらり、でもやっぱり釘付けになる。
「……すごい、腹筋、割れてる」
「触りたい?」
「……っい、や、遠慮しま」
「遠慮すんなって、ほら」
「!」
断ろうとして顔の前にかざした手首を掴まれた。ちょっと強引に彼の腹部に宛てがわれて、その硬さに口がポカンと開いてしまう。
「……ホントに同じ人間?」
「何だそりゃ、人間だよ俺」
腹直筋に触れている私の手。
それをおもむろに自分の左胸へと滑らせて、木兎さんは、唇に一本指を立ててみせた。
「聞こえる?」
「……鼓動?」
「そ、俺の生きてる音」
な? ちゃんと人間だろ?
温かくなる手のひら。
とくとく、脈を打っている。
そうか。
生きてるのか。
どうしてか妙に納得してしまって、眼前にある命がとてつもなく尊く思えて。
ああ、これがもし運命ならば。
私が数時間前、恋人にドタキャンされて、入るお店を間違って、こうして木兎さんに出会うのは必然だったのかも。
だなんて。
我ながらにメルヘンチックな考えが浮かんで、それはやがてコスモワールドの夜景に溶けていった。