第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「ったくアイツら、俺の車はクローゼットじゃねえってのに……つーか何だこの靴。よくこんな細っせえので歩けんな」
ぶつくさ文句を独りごちて、彼は後部座席を片づけていた。ルームミラー越しにみえる銀髪。
ふ、と目が合って。
ぷ、と私が吹きだした。
「んん? なに笑ってんだ?」
「それ、木兎さんがトランクに投げちゃった靴、ジミーチュウ。すっごく高価なの。なのにボールみたいに投げちゃうから、可笑しくて」
「ジミーがチュウー……?」
小鳥みたいな仕草で首をかしげる彼の脳内には、きっと、ジミーという人がチュウーッとキス顔をしている映像が浮かんでいるのだろう。
ジミーが?
チュウ?
………はあ?
その混乱したような表情がなんだか愛しくて、私はまたひとつ笑みを吹いた。
「よし、完璧、超キレー」
彼のそんな声が聞こえたのは、夜景のなかに浮かぶ観覧車が1:48を報せたときだった。
深夜の駐車場。
ぽつぽつと、人影。
バレたりとかしないのだろうか。もし仮に情事がバレたとして、通報とかされたりしないだろうか。
野暮なことばかりが頭に浮かぶ。
「あ、あの、……やっぱりホテルに」
「だーめ、俺もう我慢できない」
「……ですよね、あはは、っわ!」
シートを倒した助手席に正座していた私は、木兎さんに腕を引っ張られて前に倒れこんだ。
すかさず両脇に滑りこんできた彼の手が、軽々と私を後部座席に引きずりこむ。
「──捕まえた」
木兎さんの全身に組み敷かれて、耳元で囁かれる。もちろん退路なんてない。私は、これから。
彼に捕食されるのだ。