第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
蛇に睨まれた蛙は、きっと、こんな気持ちなのだろう。
生を掌握される恐怖。
一瞬たりとも、目が離せない。
彼は捕食者。
私は捕食対象。
俺はいつでもお前を獲って食うことができるが、今はまだ生かしておいてやる。木兎さんの瞳は、まるでそう語っているかのように熱くて、獰猛で。
「どした? ……食わねえの?」
ほら、愉しそう。
私の動揺を見抜いてる。
分かってて、弄んでるんだ。
頬が熱くなる。瞳が潤んでしまう。息があがる。拍動が強くなる。私は、なにを今更。
狭くて薄暗い車内。
二人きりの密室。
彼は男で、私は女。
こんな単純で当たり前のことが、おとぎ話みたいな運命と、失恋と、スイーツのせいで、とんでもなく甘い事実にみえて仕方ないのだ。
「口開けろ、絢香」
絢香。
とびきり甘ったるい低音で囁かれて、私は降参するかのように唇をひらいた。
「ん、よくできました」
カスタードと、カラメルの香り。
頭がくらくらするのはたくさん泣いたからだろうか。それとも──
「…………っ、ん、ぅ」
彼の、キスのせいだろうか。