• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第9章  カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)



 彼は、何も聞かなかった。

 私がなぜ黒尾さんに連れられていたのかも。私がなぜジャズバーに行こうとしていたのかも。

 どこから来て。
 どこへ行くのか。

 そして、涙の理由も。

 木兎さんは何も聞こうとはしなかったし、探りを入れるようなことも勿論せず、ただ心配してくれていた。

 見ず知らずの私を、だ。

 いくら不思議な縁を感じているとはいえ、普通できることじゃない。彼のその懐の深さは一体どこから来るのか。

 デリヘルの送迎で女の子の扱いに慣れてるのかも。そう思うと、ちょっと寂しくはあるけれど。


「ほらー、早く、あーんして!」


 そしてこの人懐こさである。

 私を慰めようとして大量購入してくれたコンビニスイーツ。彼は、その内のひとつを「あーん」してくれなきゃ嫌だと言うのだ。


「してくんなきゃ絢香ごと食べるぞー、いいのかー?」


 そのアグレッシブさがどこから来るのかも分からない。甘えん坊なのか。はたまた狼なのか。

 摑みどころがないのだ。

 分かりやすいようで全然分からない。木兎さん。あなたはどんなひと?

 いま、一体何を考えてるの。


「んんー! マジ旨!」

「……そ、それはよかった」

「絢香もひと口食ってみ?」


 旨いぜ、ほら。

 弾んだ声音で言って、私からプリンパルフェとスプーンを奪って、食べさせようとしてくれる木兎さん。

 その黄金と目が合って、沈黙して、私はそれ以上動くことが出来なくなってしまった。

 その目、その眼差し。

 甘えん坊なんかじゃない。
 もちろん狼でもない。

 このひと、音もなく獲物を狩って、自分のモノにしてしまう、──猛禽類だ。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp