第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「どうだ? 少しは落ちついたか?」
「……ん、ありがとう」
「礼なんかいいっつの」
走る、環状四号線。
ジャズライブどころではなくなってしまった私を乗せて、木兎さんはドライブをしてくれていた。
表参道の交差点からまっすぐ南へ。
ひたすら道なりに走ってきた車は、いつのまにか県境を跨いでいる。
お行儀よく並んだ赤レンガ。海と夜景を一望できる公園の駐車場に停車して、彼は、今一度こちらを覗きこんだ。
「本当にもう大丈夫?」
こくん
おずおずと頷く。
すると木兎さんは革製のシートに深くもたれかかって、安心したように嘆息した。ならよかった。吐息混じりにそう漏らしている。
「俺、女の子の涙に弱えんだよ」
困ったように笑うその瞳は、やっぱり甘やかなゴールドだ。
「美人の涙には特にな!」
そう付け加えて、彼はニッと笑んだ。
パッと明るく笑ったり。
困ったように微笑したり。
悪戯な笑顔をみせたり。
「……木兎さんて、笑顔が似合う」
「んー? そうか?」
「うん、笑うとね、すごく可愛いよ」
「じゃあ笑ってねえときは?」
「ただのヤンキー、あと声が大きい」
ぐずぐずと鼻を啜りながら言うと、木兎さんは「いまカッコイイとかそういうのを待ってたんだけど!」と大きい声を出した。
だから声が大きいってば。