第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
答えの選択肢はふたつ。
1.浮気
2.不倫
さて、正解はどちらでしょう。
「……どっちも同じだよね」
「ん? なんか言った?」
「ううん、……何でもない」
ハジメと見知らぬ女の喧騒から逃げるようにして、私は視線を下げた。伏せたまつ毛。薄く塗ったマスカラを伝って、ぽたり、水滴が落ちる。
瞬間、木兎さんがギョッとするのが分かった。
「え、うぇ、んん!?」
どうした!
何泣いてんだ!?
おい、絢香!
焦ったように短い言葉を連射する彼。
私に触れるか触れないかの位置で、その大きな手をわたわたと振っている。アワアワした顔。不安そうに下げた眉。
心配してくれてる。
全力で、私の顔を覗きこんで。
「どしたの、絢香、どっか痛い?」
痛くないよ。
ただ、悲しいだけ。
そんなセリフが頭を過ったのだけれど、口をついて出てくるのは咽ぶ慟哭ばかり。
私はそのまま、どこかへ走り去った木兎さんがコンビニの袋いっぱいにスイーツを買って戻ってきてくれるまで、ずっと。
ずっと涙を流したまま、痴話喧嘩を続けるハジメの姿を、いつまでも車内から眺めていた。