第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「……こ、たろ、……木兎さん?」
「……っな、なんつって! なんか不思議な、その、アレだ! 運命みてえだなって、思っちゃって、いやー冗談冗談……ははは」
渇いた笑い。
戸惑いと照れを隠そうとしているらしい木兎さんは、パ、とハンズアップをしてみせて視線を逸らした。
運命?
前世?
果たしてそんなものが本当に存在するのだろうか。幽霊や魔法すら存在するか疑わしいのに。
運命、だなんて──
「嫌よ! 絶対に別れるなんて嫌!」
え?
突然聞こえた女性の声。
悲鳴に近いそれに反応して、私は咄嗟に視線を走らせた。木兎さんも同じ。怪訝そうな顔をして駅前のほうを見つめている。
あちゃー、修羅場だねえ。
そんな木兎さんの声を小耳に、ロータリーの中央で痴話喧嘩をするカップルを見やった。
「ひどいわハジメさん!」
「……あんまデカい声出すなよ」
「他に女がいたなんて!」
う、そ、でしょ。
目に飛びこんできた光景に思わず絶句して、硬直して、全身の血液が巡るのをやめてしまったみたいに。
手足が冷たくなる。
唇がわななく。
無意識に鼓動が速くなって、息があがる。苦しい。脳に酸素が回らない。分からない。眼前の光景を理解することができない。
なぜ、ハジメが。
なぜ、私の婚約者が。
華の金曜日と謳われるこの夜に、都会のど真ん中で、私ではない女と痴話喧嘩をしているのでしょうか。