第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
再び走りはじめた車のなか。
私は、ジッと彼を見つめていた。それこそ穴が開いてしまうんじゃないかというくらい、ひたすらに見つめていた。
「俺の顔になんか付いてる……?」
「いえ特になにも」
「ああ、そう……じゃあなに?」
困ったような横顔で運転を続ける木兎さん。コータロー。さっきのスポーツカーのイケメンは確かにそう呼んでいた。
ぼくとこうたろう。
絶対どこかで聞いたことがある。
なのに、どうしても思い出せない。
「光るに太郎?」
「……は? 光る?」
「あなたの名前、ヒカリ、っていう字に太郎でしょう?」
私がそこまで言うと、木兎さんはびっくりしたように目を丸くした。腫れぼったい瞼。そのなかで燃える黄金。
その目、その表情。
全部知ってる。
覚えてる。
でも、──どうして?
「え、なん、何、なんで知ってんの?」
「知ってるの。自分でもどうしてかは分からない。でも知ってる」
都心の夜。繁華街の夜。
整備が進んだコンクリートを滑るようにして走るサバーバン。可愛らしい忠犬が目印の東側エリアを脱した車は、まもなくこの街の西側へと到着する。
キッ、とブレーキ音がして。
木兎さんは駅西口のロータリー沿いに車を停めた。
「着いたぜ、西口」
「あ、……ありがとう、じゃあ」
「でも降りてほしくない」
「──……え」
「行かないで、絢香」
溶けた飴のような、彼の視線。