第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「どっかで会ったことある?」
「えっ……?」
「俺とあんた、絢香、どっかで会ったことねえ? なんか見覚えあるんだよな」
これは、もしや。
もしかしなくてもアレだろうか。古来より使われしナンパ術。運命戦法。
あれお姉さん以前どこかでお会いしましたよね。もしかして前世で恋人だったとか。うわあ、運命だなあ。
という、白々しいアレである。
「うー……ん、会ったことはない、と思います、……たぶん」
「そ? じゃあ俺の勘違いだわ」
変なこと聞いたな、ワリィ。
木兎さんはそう言って、けろりと会話を終わらせてしまった。なにがナンパなのか。邪なことを考えた自分が恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。
そんなことを悶々と考えていた。
そのときだ。
「あれ、コータローじゃん」
こうたろう。
──こうたろう?
耳に飛びこんできた名前。全開になった窓。運転席側のパワーウィンドウ。木兎さんの横顔の向こうに、きれいな顔をした男性の姿が見える。
国道の隣車線。
赤色の信号待ち。
並列したスポーツカーから顔を覗かせた男性を見て、木兎さんはパッと笑顔をみせた。
「おー!及川じゃねえか! 奇遇だなあ! ったく相変わらずいい車乗りやがってお前は!」
木兎さんって、声が大きい。
ちょっとうるさいくらいの低音に耳を澄まして、私もぼんやりと考える。どうしてだろう。やっぱり。
私、この人とどこかで会ったことがあるかもしれない。