第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「んじゃ、よろしく頼むわ」
「へーへー分かりましたよ」
結局、クラブのドリンクチケット五枚で手を打った木兎さんは、助手席に私を乗せて走りはじめた。
地を揺らすようなエンジン音。
芳香剤の甘ったるい香り。
ウーハーから流れる音楽は意外にもお洒落系の洋楽で、車内にはゴミひとつ落ちていない。
仕事と兼用しているからなのだろう。
後部座席には女の子が喜びそうな可愛らしいブランケットと、灰皿がふたつ、それからピンヒールが何足か転がっていた。
デリバリーヘルス専属の運転手さんというのは本当らしい。
「ねえ、あんた」
「……っは、い、何でしょう」
「名前なんてーの?」
「あ……えっと、絢香、です」
絢香かあ。
絢香ねえ。
左ウインカーを焚きながらぼんやりと呟いた彼、木兎さんは、何かを考えているような顔付きだった。
ハンドルを回す腕。
びっくりするくらい逞しい。
Tシャツから伸びた上腕に見え隠れしているタトゥーは、なんだろう、このシルエット。
梟、かな。