第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
目を、疑った。
黒尾さんの友人という地点で気付くべきだったのだけれど、彼の物腰柔らかな雰囲気にすっかり絆されていた。
忘れていたのだ。
彼らが、夜の住人だということを。
「ったくよー、俺はお前らの足代わりじゃねえっつの! 分かる? 俺にだってオシゴトがあんの!」
ものすごくゴツイ車の運転席から、ものすごく派手な髪色をした男性が顔を覗かせている。
純白のボディ。
左ハンドル。
車体前部で輝くゴールドの十字型。
このエンブレム、たしか、アメリカの自動車メーカーが発表してる人気ブランドだ。
「仕事ってお前、ただの送迎屋だろ」
「ただの!? バカヤロウ! 俺はなあ、この国の男共に夢と愛と希望を届けるオシゴトをしています!」
「はいはい、デリヘルの送迎な」
「違えの! 愛と幸せの送迎屋さん!」
「結局送迎屋じゃねえかよ、つーか夢と希望どこいった」
何もかもが派手だった。
銀髪に黒メッシュをいれたヘアスタイルも、至るところに飾られたシルバーのアクセサリーも、彼自身が放つオーラも。
もちろん黒尾さんもだ。
落ちついた色のサマーニットにジーンズという出で立ちなのに、その身長のせいもあってか周囲から浮いている。
要するに、目立つのだ。
この二人、とても目立つ。
ラブホテルとクラブと個室ビデオ店が隣接する裏路地。通りを往来する人々が、もれなく彼らに視線を送っている。
そして、彼らに挟まれた私。
明らかに場違いなオフィスカジュアルに身を包む、この私が、一番目立ってしまっていた。
まさに悪目立ちである。