第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
黒髪の男性は「ツッキー」と呼ばれていたDJの少年に目配せをした。
言葉のない命令。
金髪にヘッドホンをかけた少年は、こくりと頷いて音楽のボリュームを落としていく。
「なによ! 何か文句あんの?」
「クロには関係ないじゃん!」
無音になったダンスフロア。
騒然とした雰囲気のなか、響くのは金切り声。女性特有の甲高いそれに舌打ちをしたのは、他でもなく、黒髪の男性だった。
「関係大有りなんだよガキ共」
冷たい、抑揚のない声。
「このイベントの主催だから俺」
店内にいる誰もが黙っていた。
息を殺して、冷ややかな目で、なおも喚こうとする彼女たちを見つめている。
「自分らよりキレイな子がくると見境なくケンカ売りやがって、馬鹿のひとつ覚えか? お前らのせいで女客どんだけ帰ったと思ってんだコラ」
自らをクラブイベントの主催だと話した彼は、そこで一旦言葉を切った。
切って、おもむろに腕を伸ばす。
その大きな手が捕らえたのは、一本の巻きタバコだった。彼女たちが吸っていたそれ。火はまだ消えておらず、先端からは白煙がゆらゆらと伸びている。
「こんなモンまで持ちこみやがって」
「……っちょ、返してよ!」
「別にいいでしょハーブくらい!」
「良くねえの、俺も捕まっちゃうの」
ガンッ!!!
何かを蹴りとばす轟音。
彼女たちの前に置かれていたテーブルが宙を舞って、ガシャンッ、ダンスフロアに落ちて大破した。
「出てけ、んで二度と来んな」
ふざけんな!
マジムカつく!
死ねクロオ!
罵言を限りを尽くして去っていく華たち。ピンヒールで駆けていくその背中を一瞥して、黒髪の男性はこう言い捨てた。
「ツッキー、塩まいとけ」
「ご自分でどうぞ」
「冷たい! 決め台詞が台無し!」