第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「ねね、このあと、ヒマ?」
「けーじのお家行っていい?」
これでもかと色香を振りまく華たちが、あの手この手で少年を振り向かせようとしている。
しかし少年はまったく動じない。
瓶タイプのカクテルに口を付けて、手元にあるスマホに視線を落としたままだ。ちょっと冷たそうな横顔。
本当にきれいな子だなあ、と思う。
「ちょ、何あの女……ダッサ」
そんな嘲笑が聞こえてきたのは、私が少年に見惚れてぼんやりしていたときのことだった。
彼にぴたりと寄りそう華。
華と呼ぶには派手すぎる彼女たちの、刺すような視線が、私のことを憎々しげに睨みつけている。
「つーか何ガン飛ばしてんだよ」
「気安くこっち見んなブース」
なん、ですと?
彼女たちの容赦ない口撃に、思わず面食らってしまった。可愛らしい外見がその言葉遣いのせいで台無しだ。
別にガンなんて飛ばしてない。
たしかに見てたけど、それは彼を見ていたのであって、彼女たちを見ていたワケではない。
ていうか、ブスって言われた。
それはさすがに傷つく。
いや、とても、かなり。
「ブスはお前らだろうが」
あまりのショックに俯いていた私だったが、突然聞こえてきた怒声に反応して顔を上げた。
少年が腰かけるソファ。
これでもかと寄りそう華たち。
そんな彼女たちを見下ろすようにして、ひとりの男性が腕組みして立っている。背がすごく高い。
奇抜なアシンメトリーの黒髪。
あの人、たしか、ダンスフロアでギャルにお酒を飲ませてた人だ。