第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
ドアの向こうは別世界だった。
唖然として、ポカンとする。
そのまま呆然と立ちつくす。
小洒落たカウンターと渋いバーテンダーさんを想像していた私の眼前には、信じられない光景が広がっていた。
「ウェーイ! オラ飲めー!」
「やーん、私もう飲めなーい」
「ツッキー! もっと音上げてー!」
大音量で流されるブラックミュージック。内臓をも震わせるほどの重低音。
ほぼ暗転状態の店内にはレーザー照明が飛びかい、中央のダンスフロアでは若い男女がお酒を片手に大騒ぎしている。
そして煙たい。
とても煙たい。
それは明らかにタバコの臭いなのだが、なんだろう、会社の喫煙室で嗅ぐのとはちょっと違う。
ツン、と鼻腔が痛くなるような。
その臭いの正体が何なのか分かったところで、きっと私にとっては未知の代物なんだろうけど。
「ねえ、けーじ、歌ってー?」
「……いや、俺今日はパス」
「ええーざんねーん」
「でもイケメンだから許すー」
向かって右側。
店内の奥のほう。
壁に沿うようにして設置されたソファに、それはそれは美しい少年が腰かけていた。足を組んで。両手に華を携えて。