第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
緩やかな坂道の中腹。
数字のロゴが特徴的なコンビニエンスストアを右折すると、辺りには大人向けのお店が増えはじめる。
怪しげな個室ビデオ店。
そっちのマッサージ屋さん。
そして、ラブホテル。
これぞ繁華街といった風景だ。
【TRIANGLE】
ピンクネオンのなかに、目当てのお店を見つけた。
トライアングル。
古き良き時代のジャズを生演奏してくれるお洒落なバー、らしい。グルメサイトにそう書いてあった。
お店はたしか地下フロア。
看板の矢印が左斜め下に向いていることを確かめて、螺旋状の階段をおりていく。
白いタイル張りの床はちょっと汚れていて、ところどころにガムがこびりついたような跡があった。
まあ、都内だし。
多少汚くても仕方ないか。
そんなことを考えつつ階段を下りきると、見えたのは頑丈そうなドア。
黒一色のそれ。
ドアノブは銀色だ。
映画館や劇場の出入口を思わせるほど重厚なつくり。防音対策は完璧といったところだろうか。
【1drink-500】
【NO DRUG!!】
なんだろう、この貼り紙。
ワンドリンク500
ノードラッグ!
あまり馴染みのない文字が印刷されたそれを一瞥して、ドアノブに手をかけた。ひやり。冷たい手触り。
重たい重たいドアを開けた私が、人生最大の勘違いを犯していたと知ったのは、この直後のお話である。