第9章 カレとカノジョの相対性理論 (R18:木兎光太郎)
「え? 来られない?」
多くの人々がすれ違うスクランブル交差点。青信号が点滅しはじめた横断歩道を、私は小走りで渡っていた。
渡りきって、途方に暮れる。
恋人にドタキャンされたのだ。
おすすめのレストランがあるからと、突然デートに誘ってきたのは向こうなのに。これまた突然仕事が入ったらしい。
まったく勝手な恋人だ。
「……どうしよう、これ」
お財布にしまっておいたジャズバーのライブチケットに目を落として、小さくため息をつく。
食後に彼と行こうと思って用意したのだけれど、すっかり無駄になってしまった。
チケットを手に、考えを巡らせる。
今からだれか誘う?
うーん面倒くさい。
金券屋に売るとか?
それも面倒くさい。
でも、捨てるのも勿体ないし。
「──よし、ひとりで行っちゃお」
雑居ビルが背比べをするセンター街。けやきが等間隔に植えられた坂道をひとり、人混みに紛れて登っていく。
足元にはハイヒール。
お気に入りのジミーチュウをカツン、と鳴らして、私は宵闇のなかへと溶けていった。