第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
強張った唇が、彼の舌によって寛げられていく。
上下に。
左右に。
岩泉くんの温かなそれが感度を確かめるようにして口内を這い、可愛らしい水音を響かせて離れていく。
ちゅ、とキスが鳴るたびに鼓動が速くなった。
テンポをあげる心拍。
それに釣られるようにして息があがる。目眩がする。
「ん、ぅ……っは、あ」
どちらからともなく漏れる吐息は甘く、切なく。私を抱きしめる彼の下肢が、ジワリ、お腹のあたりで熱を増す。
硬い感触が肌をこすった。
それがどうにももどかしくて身を捩ると、岩泉くんが私の耳元に唇を寄せて、縋るような声をだす。
「俺と付き合って……?」
不意を、突かれてしまった。
まさかこのタイミングで言われるなんて。しかも、そんな、濡れた声で言うなんて。
あの岩泉くんから出ているとは思えない艶声に、例えでも何でもなく、本当に頭がクラクラする。
「……あ、あの、えっと」
答えはもちろんイエスなのだけれど、岩泉くんの色香に気圧されて言葉が出てこない。
そんな私のパニックを知ってか知らずか。彼は、次の瞬間、とんでもないことを口にした。
「ああ、別に答えなくていいぞ」
ちょんちょん、と自分の唇を指先で叩いてみせる。
「イエスの代わりにキスして、絢香」
ボンッ!
ついに煙を噴いた私。
オーバーヒートした脳と、心臓と、こころが臨界点を突破して、リアルにお星さまが見える。
ようやく実った初恋。
大好きな彼の腕のなか。
どこかの誰かさんは鼻血ブウで倒れたんだとさ。めでたし。めでたし。
「全然めでたくない!」
「おい絢香、あんま動くとまた鼻血が」
「………あ、」
「……あーあ」
【了】