第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
右頬のあたりが、脈打っている。
Tシャツ一枚を隔てたところから伝わる音。岩泉くんの早足な鼓動。どくどくしてる。
「……お前、やらけえな」
ちょっと悪戯な声色でそう言って、岩泉くんは私の脇腹を摘まんだ。
むに。むにむに。
いつまで触ってるんですかね。
「ちょ、っと……触りすぎ」
拗ねたように言って。眉根を寄せて。鍛えられたその胸板に両手を添えて、彼を見上げる。
いち、に、さん。
たっぷり三秒の静寂。
見つめあう視線が少しずつ、少しずつ近くなって、やがて、ひとつになった。
「……っ、……ん」
岩泉くんの唇、柔らかい。
ちょっと意外だな。もっと硬いのかと思ってた。
そんなことを考えていると、触れていただけのキスが急に熱をもった。滑らかな感触に唇を撫でられて、ビクリと肩が跳ねる。
「あ、ワリィ……嫌だったか?」
全然嫌じゃない。
むしろ、全然良い。
全然良いのだけれど、その、なんていうか。私を見つめる岩泉くんの目が、視線が、──すごく熱くて。
「……っううん、嫌、じゃない」
「じゃあ、……もっかい」
私、いま絶対顔真っ赤だ。