第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
【お ま け】
「及川、お前アレ、わざとだべ」
修学旅行最終日。
国際通りの外れにあるアイスクリーム店の片隅で、花巻がニヤリと笑みを浮かべていた。
「アレ? どれ?」
分かっているくせにシラを切るのは、自撮りアプリで本日のベストショットを撮影しようとしている及川である。
「一日目の、談話室の」
「ああ、カフェオレ?」
「そう、カフェオレ」
そんな会話をする二人の横で、松川が紫芋アイスをスプーンですくっていた。
パクリと、ひと口。
赤紫色のそれを口内に含んだ松川は「……甘」と不機嫌そうに舌先をだす。
「ワザとじゃないもんねーだ。岩ちゃんの嫉妬心に火をつけたら面白いことになるかな、なんて全然考えてないもん、全然」
「下衆!」
「なにさ、マッキーだって、絢香ちゃんのことちゃっかり名前で呼んでたクセに」
「いや俺はあれですから。純粋にお近付きになろうと思っただけですから」
「ウソだね、絶対ウソ」
燦々と降りそそぐ太陽光。
小さなアイス店のテラス席に、男子高校生の談笑が響き渡っている。
もう食べるつもりのない紫芋アイスをスプーンですくって、松川はぼんやりと呟いた。
「……やっぱあのまま犯せば良かった」
ギョッ、として固まる二人。
花巻は飲みかけのタピオカミルクを喉に詰まらせかけたし、及川は目を輝かせて根掘り葉掘り聞きだそうとする。
「ねえ何? 犯すってどゆこと?」
「つーか誰を? どこで?」
ぎゃんぎゃんと質問攻めをする二人の顔を交互にみて、それから、松川は不敵に微笑んでみせた。
「お子さまには教えてやんねえよ」
そんな彼、松川一静もまだ17歳。
彼らは、今、青春の真っ只中である。
【おしまい】
おやつ(のアイスは甘すぎて)