第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
星降るテラスでのワンシーン。
男同士の友情にこころを撃ち抜かれた私は、涙目で彼らの絆に想いを馳せていたのだけれど。
「……っ、……!!!」
岩泉くんは泣いていた。
もう、すごく泣いていた。
下唇を噛んで、声を押し殺して、ぼたぼたと落ちる涙をその腕で拭う。絵に描いたような男泣きである。
「友情、っていいね」
テラスに常設されたベンチに座る、彼の前。床にしゃがみこんで私が言うと、岩泉くんは勢いよく首を縦に振った。
「愛と同じくらい素敵」
こくん!
またひとつ、彼が頷く。
「……あの、岩泉くん」
涙で濡れてしまった彼の手に、そっと自分の手のひらを重ねて、私は言った。
「その涙を拭いてあげたいのですが」
いいですか?
首を傾げて問うと、……こくん。
今度は小さく頷いた彼。
「では失礼します」
真っ赤になってしまったその目元に触れる。頬を滑りおちていく雫を指先で受けとめて、指腹で拭いとる。
きもちよさそうに瞳を閉じる彼。
その姿がなんだか可愛くみえて、ふふ、と笑みがこぼれた。
「……瀬野って母親みてえ」
「こんなに大きな子を産んだ覚えは、ちょっと、ないんですけれども」
「わーってるよ、だって俺も、」
ギュッ
岩泉くんに腕を掴まれる。
そのまま彼のほうへ引っ張られて、バランスを崩して、倒れそうになったところで、逞しいその腕に抱き留められた。
「──俺も、こんなに可愛い母ちゃん持った覚えねえしな」
まだ少し涙混じりの、彼の声。