第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「…………、松川?」
岩泉くんの声は震えていた。
戸惑いを隠せないでいる彼に、松川くんが声を低くして言葉を投げる。
「俺、絢香のこと好きなんだわ」
「………は?」
「隠してて悪いな、岩泉」
淡々と。
飄々と。
まるで機械のように言葉を連ねて、吐きだして。そんな松川くんの手は、かすかに震えている。
「いやー、お前らのことくっつけてやろうと思ったんだけど、やっぱ欲しくなっちゃってさ」
岩泉くんは何も言わない。
怒ることも。
悲しむことも。
何もしないで彼を見つめている。
「でも無理だった、こいつ、どうしてもお前がいいんだと。だから俺は大人しく諦めるわ」
ほんの、一瞬。
岩泉くんが口を開こうとして。
「礼とか言ったら殺すぞ」
松川くんが少しだけ声を荒げた。
「ごめんっつっても殺す」
訪れた沈黙は、あまりにも重たい。
怖いくらいに静かで、息すらしちゃいけないような気がして、私は、ただ黙っていることしかできなかった。
「ただ、約束しろ」
「……約束?」
「ヤるならゴムは付けろよ」
「は!?」
「大切にしろ、っつってんの」
幸せになれよバカップル。
最後にそう言った彼の、松川くんの声は、どこまでもどこまでも優しかった。