第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
*
(──……眠れない)
深夜。静寂のなか。
ほどよく温まった布団にくるまって、のそり、私は寝返りを打った。
先ほどまで部屋を満たしていた友人のガールズトークも、誰かが流していた恋愛ソングも、いまは聞こえない。
窓からは月明かり。
それは、ぼんやりと。
心地良さそうに夢をみる友人たちの寝顔を、やさしく照らしている。
ザザ──……ン
ザザ──……ン
遠くで、海が鳴いていた。
ヴヴッ
枕元に置いたスマホが光る。
何かと思えばそれはトークアプリの通知で、小さなポップアップウィンドウには、彼の名前が表示されていた。
【起きてる?】
プロバレー選手の写真アイコンから出ている吹きだしには、ひと言、そう書かれている。
【起きてるよー】
【部屋、抜けてこれる?】
【どこ?】
【展望テラス】
流れていくトーク画面。
ほとんど間を空けずに送信された会話は、彼からの【んじゃ待ってる】を最後にそれ以降は止まっていた。
そろり
そろり
友人たちを起こさないようにドアへと歩を進めて、それから、そっとドアノブを回す。
顔半分だけを出して、廊下に目を走らせた。誰もいない。先生たちによる見張りはすでに終了しているようだ。
ぬき足、さし足。
南北に伸びた廊下を進む。
目指すはホテル最上階。
彼が待つ、展望テラスだ。