第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「俺のとっておき、聞きたい人」
花巻が唐突に話題を振ったことで、考えが遮断される。
原因不明の痛みをひとまず脳の片隅に追いやって、俺は他三人の反応を待った。
「なになに? 面白い話?」
目を輝かせて及川が言う。
「どうせ下世話な内容だろ」
松川はあくまで冷静だ。
肝心の瀬野はと言うと、少し緊張したような顔で花巻を見つめている。
「……とっておき、何だろう」
「お、絢香ちゃん気になる?」
チクン
また、ひとつ。
鳩尾のあたりが苦しくなった気がして、思わず眉間に皺が寄った。
痛え、と思う。
でもどうして。
「花巻、お前まさかあの話?」
「え!なに! どの話!?」
声を低くした松川がそう問うて、及川がより一層やかましい声を出す。
いつものバレー部の風景。
普段と変わらない、俺たち。
そのハズなのに。
「あの話だけはやめとけよ。絢香はそういう、怪談系とか苦手だから」
絢香。
ああ、そうか。
自分のなかで渦巻く【それ】が痛みの正体だと分かって、俺は、極々小さく舌を打った。
花巻はいつの間に、とか。
松川はいつから、とか。
我ながら柄じゃない。
柄じゃねえし、カッコワリィ。
気になる子を名前で呼ばない自分。呼べない自分。ただ、それだけなのに。
こんな些細なことが、こんなにも苛立たしい。
家族と同じくらい大切なチームメイトに俺が抱いたのは、──情けなくなるほど醜い【嫉妬】だった。