• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第8章  おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)




「俺のとっておき、聞きたい人」


 花巻が唐突に話題を振ったことで、考えが遮断される。

 原因不明の痛みをひとまず脳の片隅に追いやって、俺は他三人の反応を待った。


「なになに? 面白い話?」
 目を輝かせて及川が言う。

「どうせ下世話な内容だろ」
 松川はあくまで冷静だ。


 肝心の瀬野はと言うと、少し緊張したような顔で花巻を見つめている。


「……とっておき、何だろう」

「お、絢香ちゃん気になる?」


 チクン
 また、ひとつ。

 鳩尾のあたりが苦しくなった気がして、思わず眉間に皺が寄った。

 痛え、と思う。
 でもどうして。


「花巻、お前まさかあの話?」

「え!なに! どの話!?」


 声を低くした松川がそう問うて、及川がより一層やかましい声を出す。

 いつものバレー部の風景。
 普段と変わらない、俺たち。

 そのハズなのに。


「あの話だけはやめとけよ。絢香はそういう、怪談系とか苦手だから」


 絢香。
 ああ、そうか。

 自分のなかで渦巻く【それ】が痛みの正体だと分かって、俺は、極々小さく舌を打った。

 花巻はいつの間に、とか。
 松川はいつから、とか。

 我ながら柄じゃない。
 柄じゃねえし、カッコワリィ。

 気になる子を名前で呼ばない自分。呼べない自分。ただ、それだけなのに。

 こんな些細なことが、こんなにも苛立たしい。

 家族と同じくらい大切なチームメイトに俺が抱いたのは、──情けなくなるほど醜い【嫉妬】だった。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp