第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
夕飯が終わったあと。
クラスごとに風呂を済ませた俺たちは、就寝までの時間を各々好きなように過ごしていた。
俺は同室の奴らとバラエティ番組を観ていたんだけど──芸能人が賞金をかけて鬼ごっこするやつだ──及川に電話で呼び出されて、いまは談話室に向かっている。
談話室。
それは、男女の壁で分断された客室エリアの中央に位置していた。
ロビー階に続いているエレベーターホールの隣。インターネットの無料スペースなんかも設置されているそこは、俺たち青城生の【逢引場所】というワケだ。
男子は向かって南側から。
女子は北側のエリアから。
教師が「異性同士でお喋りを楽しむなら談話室で」と指定してきたのだから、これを活用しない手はない。
ちなみにこれ全部及川が説明してくれた。頼んでもいないのに。勝手に。
「おー! 来たな本日の主役!」
談話室に到着すると、三人掛けのソファが向き合っている席から花巻の声がした。
松川と、瀬野の姿もある。
俺からみて右側のソファに花巻と松川が、左側のソファに瀬野がひとりで座っていた。
どっちに腰掛ければいいんだ。
そんな疑問が浮かんで、迷った末に【右側】に座ろうとして、花巻と松川に怒られた。
気まずさと、照れ臭さと。
その両者がごちゃ混ぜになったような心境のなか、瀬野の隣に腰かける。
「……そういや、及川は?」
そんな俺の問いに「ジュース買いにいったよ」と答えてくれたのは、頬をちょっとだけ赤くした瀬野の声だった。