第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
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世界がガラリと変わった気がした。
ただの同級生としか思っていなかった瀬野が、まるで別人のように見えた。
及川たちに一枚噛まれたのが悔しいけど、例のなんとか大作戦ってのは、まあ成功したらしい。
「残さず食えよー」
「コラ! 6組男子!」
「静かになさい!」
修学旅行一日目の夜。
各クラスごとに腰かけた俺たちは、風土色豊かな沖縄料理に舌鼓を打っていた。夕飯の時間である。
やんやと教師に叱られる6組。
隣のクラスだが、説教を食らってる中心にはやはり及川(やつ)がいた。本当バカだなあいつ。
ふと、反対側に目を向ける。
でかい宴会場の壁際。
出席番号順で並ばされた1組の列に視線を走らせて、瀬野の姿を見つけた。
俺は5組だから、ここからだと少し遠い。
楽しげに食事をする笑顔を眺めて、笑うと可愛いんだな、なんて柄にもないことを考える。
そんなとき、だった。
「岩ちゃあーーん」
例によってクソ川である。
奴は6組の【お】
俺は5組の【い】
要するに席が近え。すごく近え。生徒数人を挟んだ距離にいる及川を睨むと、奴は唇だけを動かして口パクをしてみせる。
(見・す・ぎ☆)
ちなみにウィンクのおまけ付き。
鳥肌が立った。殺意が湧いた。
これ以上あのバカに付き合うと、全生徒の前で【クソ川ボゲェ!】を晒すことになるので、俺はそっぽを向いて食事を再開した。