第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「あ? 何で俺が悪いんだよ」
及川からの抗議に、岩泉が一歩詰めよって眉根を寄せた。及川も負けじと不機嫌を返す。
「絢香ちゃんの好意に気付いてない鈍感さんはね、この地球上で岩ちゃんだけなの!」
だから俺たちがひと肌脱いだの!
なのに、もー、岩ちゃんすぐ殴るし!
バカバカ!
岩ちゃんのバーカ!
及川がそこまで言ったところで、岩泉が【星砂投擲体勢】に入ったので、花巻が慌てて止めにかかる。
「ま、まあまあ、もう良くね? 瀬野さんも、ほら、そろそろ頭上げような?」
花巻にやんわりと諭されて、絢香はおずおずとだが頭を上げた。
紅潮した頬。
長いこと頭を下げていたせいで、顔に血が登ってしまっている。
「……岩泉くん、本当にごめんね」
視線を合わせた状態で改めて謝罪された岩泉は、ちょっとだけ拗ねたように唇を尖らせて、それからこう言った。
「審判してくれたら許す」
「…………え?」
「今からこいつらとビーチバレーすっから、瀬野が審判してくれたら、その……だああ!もういいだろ! ほら、一緒に遊ぼうぜ!」
きょとんとしている絢香の手首を、岩泉がガシリと掴んだ。そんな二人の光景を、及川らが眺めている。
一緒に遊ぼうぜ、とか。
小学生かよ岩泉。
つーかビーチバレーすんの?
美人の女子生徒が「私パスだからね」と残して去っていくなか、岩泉が声を張りあげた。
「お前らー! ミス一回ごとにビンタ一発だからな!」
どんな理不尽なルールそれ!?
及川の悲痛な叫びがビーチに響いて、刹那、寄せては返すさざ波の音に吸いこまれていく。